誠意を示すことが、良縁を引き寄せる。「こういう出会いを求めていた」と腑に落ちたM&A
社長インタビュー企画 Vol.2! M&Aの”買手企業の目線”について、三和建設株式会社から同社グループ傘下へ入った森塗装工業の次期社長を務められる森本行則様にお話をお聞きしました。
■取材協力:森塗装工業株式会社 専務(2022年10月時点) 森本行則様(聞き手:バトンズ担当者 執筆:代表 柿本美沙)
■プレスリリースはこちら:三和建設、森塗装工業の全株式取得(子会社化)
なかなか実らない。苦戦の中で出会った森塗装工業
三和建設は、総合建設業として、同業種で直接シナジーがあるM&A対象先を探していました。遡ることもう3年前くらいから東京で探し始めていたのですが、なかなかうまく進みませんでした。「M&Aって本当に難しいな」と思い始めていた頃だったんです。ちょうど「仕切り直して、幅広く検討しようかな」と考えていたところでした。
最初に柿本さんに森塗装工業をご紹介いただいたとき、名刺交換を終えた直後に「ちょっとすみません。最初に言わせてください。森塗装さんに三和建設のプロフィールをお持ちしたら、実は『何としてでも、是非この会社に検討してほしい』と言われているんです。三和建設のM&Aの対象外と言われたあとでは言い出せなくなると思ったので、先に言わせてもらいます!」と言ってくれたのが印象に残っています。
森社長がようやく重い腰を上げてM&Aを決断されたけれど、お見合い写真を何人か見ては「ここは嫌だ」と、全部断っているということ。そんな中、三和建設を知ってHPを覗いたとき、すぐに「これは素晴らしい。こんな会社に引き継いでもらえたら、こんな誉れなことはない」と仰っていたことを聞きました。
それは、失恋続きの私にとってはすごく有難い話でした。
初回アポイントの後日談?
クロージングの後に柿本さんから聞いたのは、実はあのときはヒヤヒヤしていたという話でした。森社長がもう三和建設にベタ惚れで、でも三和建設のM&Aストライクゾーンからは少し外れているから、「ちょっと違うね」と言われる可能性が高いと思っていた。それで仮にフラれたら、「森社長に何て説明しよう。良い継承先を絶対に見つけないといけないのに、また塞ぎこんでしまうかも」ということばかりを考えていた、と。
だけど、最初にそういう想いの熱さを伝えてくれて良かったんです。それが無かったら、もしかしたらマッチングしていなかった可能性もあります。
初対面の買手候補に対して売主からの好意を全面的に伝えることは、M&Aアドバイザーとしてはその後の交渉を考えるとすこしリスクも感じていました。買手企業から思わぬ強気な条件提示をされかねないからです。
だから森本専務との初回面談の日まで、どのように伝えるか悩みに悩んだのですが、結果的にはストレートに伝えることを選び、今回はそれがベストだったので本当に良かったです。
形ある言葉や数字から真相を見抜くのが買手の手腕。だけど、成約を決めた相手に「裏」は感じなかった
それまでの2、3年間、いろんなIM(案件概要書)を見たり、たくさんのトップの方とお会いしたりしてきたけれど、実情って、やっぱりわからないじゃないですか。「従業員は良い奴ばっかりで、みんな優秀」と言われても、そうではないかもしれないし。トップの方からM&Aの背景や譲渡後のビジョンなどをお聞きしても、何となくモヤモヤした部分がありました。
入札案件や競合がいたりする場合だと、「じっくりこれから買手を探そう」と思われているトップの方は、そのアドバイザーも含めて、話を”盛り”気味にしたり、ちょっと背伸びしたりとかするじゃないですか。これだけトップ面談を何度も経験していると、その「背伸び」って見えるんですよ。「そんな訳ないでしょ」と思ってしまう。
でも、森社長の話からは一切それを感じなかったんです。素直に仰っていた話がすっと腹に落ちてきて。森社長から語られる社員像にはすごく愛があって、真面目に教育されてきたことがすごく伝わってきました。「あぁ、この方が育てた社員に悪い人がいるはずがない」と思えたんです。
売主の英断に応えるため、まっすぐ真摯に向き合うべし。これに優る交渉は無い
M&A案件の勝率で言うと「失敗が49、成功が1」という感覚です。結果論ですけれど、1件に対して誠実に全力集中したほうがいいと痛感しました。
二股も三股もかけてはダメなんです。私も一時期、案件が両手にあるときがありました。結局、そういう時期って、全然集中出来ていないんですよね。案件概要書の数字の奥に、どういうアイデンティティーが流れているのかまでイメージができていない。案件で溢れているときは、もう「あれは何工業?」「社員数はどれくらいだっけ?」と訳がわからなくなる。それでは良いタイミングを逃してしまいます。
だから、一度進めると決めたらもうその1本に決めて進めたほうが良い。今回の成約を通じてそう思いました。先方も大きな決断をされているわけなので、それ以上に、きちんと買い手側の好意を全力で伝えてあげるべきだなと思います。
当初はたくさんの検討案件があった様子だったので心配でしたよ…!でも、結局は森塗装工業とお話を進めていただいたことを考えると、売主側も買主側も下手にM&Aの交渉テクニックを駆使しようと画策するよりも、お互いに素直な想いを伝え合って直球勝負することが1番なのだと実感させてもらいました。
インタビューはPART2に続きます。