会社はいくら?企業評価の考え方【後編】

前回の記事では、「過去」「現在」「未来」の視点で企業評価を考えてみましたが、実際のスモールM&Aの世界では、どんな評価がなされるのでしょうか。

前回の記事でお伝えしたように、「過去」起点ばかりでなく「未来」視点が取り入られるべきだ、という私の個人的な想いは正直なところです。


しかし、「過去」の業績に基づく評価というのはあまり「議論の余地がない」点で、交渉しやすいところにメリットがあると思います。もう、過去は事実として疑いようもない信頼できる数値であり、その数値自体に疑いようがないため、「議論の余地がない」=「交渉の余地がない」ので扱いやすいのでしょう。

とくに最近の後継者不足の問題から発生する事業承継系のM&Aでは、会社への評価というのは長年経営に従事した社長への「卒業証書」みたいな意味合いがあることから、「これまで大変お疲れさまでした」ということで累積で積み上げた利益(純資産)を会社の評価とすることが多く、まぁわかりやすいといえばわかりやすいのです。

ただ、一番多い評価の仕方は「純資産+営業利益3年分」のようなハイブリットじみた評価の仕方で、これは「純資産(過去)」と、「ゼロから事業立上げするよりは買収によって時間を買うことで得られる数年分の営業利益(未来)」という考え方に基づくものです。

これに関しては、「理解はできるが、安直にこの計算式に当てはめないで欲しい」というのが私の見方です。
というのは、純資産(過去)側も営業利益(未来)側も、ちゃんと「自分が買収したらどう評価するか」を深く考えていればいいのですが、「純資産+営業利益3年分」という式がかなり共通の方程式みたいになってしまっていて、投資判断に頭を使わなくなってしまっているケースが多いのではないかなと思うのです。

買手は、
・この買収資産をちゃんと効率的に回転させて、これまでの社長の経営を超える事業発展ができるにはどうしたらいいのか?
・それを実現するためには経営資源として何が必要なのか?
・そして現実的なキャッシュフローはどう描かれるのか? 

といった様々な観点でしっかり精査した上で投資すべきか否かを判断してほしいと思っています。

もちろんデューデリジェンス(DD/企業調査)でその妥当性を審議することにはなるのでしょうが、このDDというのも単に買い側が「価格を下げられる余地を探し出す」プロセスになってしまってはいけないと思います。

正直、私がM&Aの世界に入る前は、MA実行可否の判断の場面ではもっと「未来」視点の議論が展開されるのかと想像していました。しかし実際には「うちは純資産が上限」「営業利益3年分しか見ない」など、割と膠着的な投資判断指標を持っている買い手(投資家や事業会社でもストロングバイヤー)が多い印象を受けてしまいました(ちょっと残念に感じていました…)。

投資判断というものは労力もお金もかかる大変なプロセスであるため、判断を効率化したいという考えは理解はできるのですが、ただ、(思い切って言ってしまいますと)買い手がそこに頭を悩ませなくなったら終わりです。

ここがM&Aに失敗事例が多い要因だと思うのです。売り手は価格が高ければ高い方が良いわけでもなければ、買い手は安ければ安いほうが良い、というわけではありません。

シンプルですが、事業成長が描けてこそのM&Aです。高くてもその何倍も飛躍できる力がある買い手なのであれば売り手に敬意をもって高く買っても事業は成功させられます。逆に事業成長を何も描けないのであれば、ゼロ円であっても買うべきではありません。

とくにスモールM&Aの世界では、新聞に載ったり、業界を揺るがすほどの大事件ではないかもしれません。ただ、経営者の想いに大きいも小さいもありません。

プロの投資家になればなるほど、効率重視の交渉を進めたくなる気持ちは理解できるのですが、M&Aをマネーゲームのように扱う買い手を私は好みません。希望要件の出し方も交渉の進め方も、要件の最低ラインの考え方も、すべてにおいて丁寧に考えるスタンスが大事だし、お互いへのリスペクトがあって然るものなのではないかと思います。

一筋縄ではいかないM&Aの世界ですが、例えば価値算定の方法論は「共通言語」として学ぶべきだとは思うものの、さまざまな要素を丁寧に扱い、両者一緒に話を良い方向に向かわせようとしてくれる相手とM&Aのプロジェクトを進めていきたいという気持ちです。

書いていたら私の個人的な想いを綴るだけになってしまいましたが😂、また機会があれば深堀してみたいと思います。