会社や事業の価値算定はどのようにあるべきか、皆さんはどんな風に考えていますか?

これはどんな案件であっても簡単には判断がつかないケースが多いのではないかと思います。

基本的には売りたい人は高く売りたいし、買いたい人は安く買いたい。お互い相反する意向を、正当なロジックらしきものを用いて主張し合い、着地点を見つけていく。なかなかすんなりとは着地点が見つからないケースも多いものです。

アカデミックな本にはいろいろと手法が解説されていると思いますが、私なりのおおまかな解釈では、「過去」「現在」「未来」の3つの観点で考えていくとわかりやすいと思っています。

①過去

まず過去。これが一番わかりやすいのかもしれません。「これまで業歴を積み重ねてきた中で、良い時期も悪い時期もいろいろあったけど、その結果としていまの成績はどれほどなの?」という考え方です。
「これまでの業績を積み重ねた数字」というのは、文字通り、貸借対照表の純資産の中でも「繰越利益剰余金」に表されていますね。資本金とかはおいといて、例えば、利益が100の期があって、翌年は90の赤字だったとしたら、(配当がなければ)いまの成績は「⊕100⊖90」で、⊕10の評価となるわけです。

この純資産の数値を基準にするというのがいまでもスモールM&Aの世界では企業評価としてはいちばんベースになる主流の考え方なのではないでしょうか。「純資産を超える価格は絶対に出せない」という買い手の声は、いまでも結構聞くことがあります。

②現在

これが上場企業だと、また話が変わってきます。「現在」起点の企業評価というのは「いま、株を市場で売ったらいくらで売れるの?」という考え方です。
これはフェアといえばフェアです。恣意的な主張をしようとするのではなく、一般投資家からのフェアな数値評価をベースにして交渉が繰り広げられるわけですから。
当社が扱うようなスモールMAではあまり上場企業の売却を扱わないため、ここはあまり深くは語りません。

③未来

この未来というのが奥が深く、やっかいといえばやっかいだし、面白いと言えば面白い。ファイナンス好きな私の大好きな論点です。そして、買い手企業にとっては深く考えられるようになってもらいたい重要な論点です。

これは「この会社を買ったとしたら、将来どれだけの利益・キャッシュを生み出すことができるの?」という考え方です。

ここにアカデミックな手法として、NPV(正味現在価値)試算や、IRR(内部収益率)の吟味があるわけです。

例えばNPVを算出するには、毎年のキャッシュフロー(キャッシュインもキャッシュアウトも含めて)を算出して、現在の価値で割戻して、数年間のトータルで生み出す正味のキャッシュフローの現在価値を算定していきます。このとき、NPVがプラスになれば投資判断としては「GO」、マイナスとなれば「STOP」という評価を下します。

個人的には、M&Aを検討する段階では、会社を買ってから先の「未来」にフォーカスするのは最重要で、「過去」視点の一辺倒で買収金額を交渉するのでは浅すぎると思っています。
基本的にM&A成約後に、その事業がさらなる成長をさせられるかどうかは、買い手にかかっているわけですから。

ただ、ファイナンスの手法というのはあくまで「考え方」なので、未来を読むのはそう簡単ではないというところがこの「未来」シフトの企業価値算定があまりスモールM&Aの世界では広まりくにい理由のひとつなのではないかと思っています。


さきほどのNPV算定で考えてみても、議論の余地が満載なのです。

・将来キャッシュフローはこの計算で正しいのか?(…まずココが難しい🙄)
・現在価値に割り戻すときの割引率(%)は妥当なのか?(これに至っては、もはやアートの領域🎨✨)
・考慮する対象期間はこれで正しいのか?(決裁が下りて欲しかったら、期間を長くしちゃえば良いのでは?🤨)

NPVやIRR自体の考え方は素晴らしいし、こういった手法で考える買い手が増えてほしいとは思うものの、そこで使う数値が妥当でないと投資判断を大きく間違うわけです。
「未来を正確に占う🔮」ことは誰にもできることではありませんので仕方ありません(というか誰にもできません)。

従って、例えば現在価値算定までは取り入れずとも、実際には事業計画・資本政策がある程度の緻密に立てられてあれば優秀な方なのではないかと思っています。

ただ、国内の大手総合商社や、投資ファンドなどのプロの投資家は当然に厳しく現在価値を算出しているでしょうから、買い手もそういったファイナンスの考え方を学んで、少しでも取り入れながら「未来」を設計する力を高めてほしいと思っています。

さて、では実際にスモールMAの世界ではどのような企業評価がなされるのか? 

次回に続きます。