買手企業は「自分本位」であれ
前編では、M&Aの買手企業には「M&Aを実行する必然性が必要だ」という話をしました。
もっと言ってしまうと、私は買手企業は「自分本位で良い」とすら考えています。
こう書くと誤解を生むかもしれませんが、決して「売り手企業に強気な譲渡要件や希望金額をつきつけて良い」とか「自己中心的で良い」と言っているわけではありません。
売手企業には、最初から最後までリスペクトを示すことが必要です。
ただ、買手企業には、なぜM&Aを実行したいのかという理由を、色濃く突き詰めて考えてほしいと思っていて、そのプロセスは自分本位で良いと思っています。
とくに初めてM&A実行に挑戦しようという会社の社長であれば、「将来、自分はどういう経営者になっていたいのか」を考えることで、そもそもリスクを負ってまでM&Aに挑戦すべきかどうかの判断軸が明確になるケースもあるでしょう。
あるいは、「将来ビジョンや経営戦略に対して、売却企業の活かせる部分はどこで、不要な部分はどこなのか」≒「わがままを言えばどの部分が欲しくて、どの部分はいらないのか」を考えることで、譲受後のPMI(統合後プロセス)の期間中にやらなければならないことが鮮明になります。
さらには「譲渡後、わがままを言えば売手社長や売手企業のキーマン人材にはどのように関与してほしいのか」を考えることで、M&A成立後にうまく統合するためにはどういう組織体制にすることが必要なのかが見えてきて、組織としての機動力が上がる方策が明確になってくるかもしれません。
つまり買手企業は、「自分軸」で譲受後にM&A成功に導くためにはどうしたら良いかをしっかりと考えるべきだと思うんですよね。
「救ってあげたい」は弱い?
昨今の事業承継やM&Aブームの中、最近は投資ファンドのような会社で、事業承継の課題を抱える会社を買収し、投資ファンドのように数年で売却するのではなく永久保有する会社がすごく増えてきました。
中には、会社としては他社に負けない強みを持っているのにも関わらず、後継者不足に悩んでいたり、財務的に厳しいため買手企業が現れず、承継先が見つからずに悩んでいる会社もあります。
そういう事業承継ニーズにある会社を「救ってあげたい」という名目で会社を買収し、経営を支え、会社を生き返らせることを事業にしている会社が多くなっています。
これは国内の事業承継課題の解決という意味で、非常に意義があると思います。
ですが、個人的には「買収名目としては弱いな」と感じています。
「何が何でも、このM&Aでうちの会社を大きく成長させるんだ。そのためにはこのM&Aは必要なんだ!」という気概の買手会社と比較してしまうと、「救ってあげたい」という意欲というのはどうしても見劣りしてしまうというのが正直な意見です。
(あんまり大きい声で言いずらいので、あくまで個人の見解ということで…)
「救ってあげたい」という気持ちだと、どうしてもDD期間中に発覚した問題点を譲渡対価に反映しようとしたり、そもそも「そういうことなら、やっぱり辞めます」といつでも言えるので、売手企業と買手企業のパワーバランスが極端になりがちです。売手企業の立場が弱くなりすぎてしまいます。
けれども、買手企業にとっても「どうしても、このM&Aを進める必要があるんだ」という強い意向があれば、DD期間を経てその後続くさまざまな大変な局面も乗り越えられると思うんです。
だから、「自分本位で考えても、どうしてもこの会社が必要なんだ」と明確に、鮮明に意思が固まっている会社に継承してもらいたいなと思っています。
そういう会社であれば「きっと、これからどんな困難が起きても離婚(契約解除)せずに、将来のために力を入れてくれるだろう」と思うことができるので、アドバイザーとしても心強いのです。
「M&Aの必然性」という意味を、すこし強めに伝えてみたかったので記事にしてみました。あくまで個人の見解としてとらえていただければ幸いです。