ずっと昔から大事にしている理論があります。

「アウフヘーベン」と呼ばれる哲学用語なのですが、皆さんご存じでしょうか。

M&Aだけでなくともビジネス場面でよく活用されるべき考え方ですし、人生のさまざまな場面で生きるものです。

“augheben”はドイツ語で”Auf”=上へ、Heben=持ち上げるという意味で、日本語では止揚(しよう)や揚棄(ようき)という聞き慣れないワードで訳されます。

これは弁証法のひとつで、意見(テーゼ)に対して、対立する意見(アンチテーゼ)が存在する際に、二つの異なる意見を否定せずに議論を深め、共通する点に着目し、次元を高めて新しい意見(ジンテーゼ)を確立するという発想です。

旬なテーマとしてはSDGsの発想があてはまるような気がしています。ビジネス性の追求と環境配慮はトレードオフになりがちな側面があるものの、両方を実現しようとする主張はアウフヘーベンの考え方に沿っています。

■(テーゼ)エネルギーの生産事業で収益拡大が見込める
■(アンチテーゼ)エネルギーの生産には大量の廃棄物を生み、環境破壊につながる

→(ジンテーゼ)リサイクル燃料の生産事業で収益を拡大する

身近な生活の中でも、取り入れると良いことがありそうです。

■(テーゼ)彼はやきそばが食べたい
■(アンチテーゼ)彼女はパンが食べたい
→(ジンテーゼ)やきそばパンを食べよう

アウフヘーベンのミソは、お互いの意見を損なうことなくそれぞれの主張を叶えようとする働きかけであることです。家族や友人など人間関係においても大切ですね。

M&Aの世界では、売り手と買い手の交渉になる上、すべてにおいてこのアウフヘーベンの視点を持つことが重要になると考えています。

■(テーゼ)売主の主張 
■(アンチテーゼ)買主の主張
→(ジンテーゼ)双方が納得する主張

大事なのはここで「次元を高める」視点をもつことで、「妥協」してしまって次元を下げてしまうと両方の主張が損なわれてしまいます

次元の高い視点で交渉を俯瞰して見たときに、双方にとってプラスとなり得ることは何か?を追求するところに良い案件の成約となるかどうかがかかっています。

相手を「負かしてやる!」というネゴシエーションマインドではなく、このアウフヘーベンのマインドがあれば、良いM&A案件が増えていくのではないかと思っています。