今回はM&Aに関する書籍をご紹介したいと思います。

スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門」です。

著者のひとりは私が尊敬してやまないスモールM&Aの第一人者です。

“デューデリジェンス”と聞くと、法務リスク、財務、税務リスク、コンプラリスクなど、さまざまなリスクを買収前に可視化させて、できるだけリスクを最小限に抑える策を講じるか、もしくはリスクが大きすぎる場合には買収自体を止めてしまおうという決断材料を見つけ出す大事なプロセスですよね。

ただこの著書では、特にスモールM&Aにおいては、M&Aの失敗というのはビジネスデューデリジェンスの甘さに起因するということを様々な事例から証明してみせています。

たしかに、弁護士さんに頼む法務DDや、会計事務所に依頼する財務・税務DDなんて、勘どころはたかが知れているんですよね(というと大げさですが。専門家たちの仕事のレベルが大したことないと言っているわけではありません)。

つまり、わりと決まりきった観点でDDを行うことができるので、リスクがあれば発見しやすいし、どう対策を講じるのかも、過去のM&Aのケーススタディが多いから考えやすい。

だって、法務や会計、税務って、業種や規模にかかわらず、どの会社も抱える一般事項ですから。難しい問題は、「過去を探しても事例がない事象」なんです。

「A社がB社を買収したら、一体どんなことが起きる?」という唯一無二の事象を、ビジネスのさまざまな観点でちゃんとデューデリジェンスにおいて見極められているのかどうかが肝心なのです。

この未来予想図を作るには、当該業界知識だけではもちろん足りず、これまでの社歴、経営者、経営方針、キーマン、キーとなる顧客、取引先、社内のルール、文化・・・などなど、さまざまな観点でビジネスデューデリジェンスを行う必要があるんです。

虫の目、鳥の目、魚の目・・という言葉がありますが、まさにM&A前にはこういった目利きが大事でしょう。

この著書では、スモールM&Aでのビジネスデューデリジェンスの大事な観点を通して、M&Aを進めるうえでの大事なポイントを学ぶことができます。

 
以前、M&Aアドバイザー業を始めた頃に聴講したセミナーで、海外でのM&A(主にジョイントベンチャーを作る案件)を数多く手掛ける弁護士さんがこんなことを仰っていました。

「ジョイントベンチャーの多くが揉めたり失敗したりするが、それらのケースの大半が、『JV設立時に想定していなかった』ことが起きるから。『ビジネスがものすごくうまくいったら、2者の関係性はどうなるのか?』『ビジネスがものすごくうまくいかなかったら、2者の関係性はどうなるのか?』こういうことを熟考して契約を結ばないと、たいてい揉めます。」

ビジネスがものすごくうまくいけば、利益配分に不満がでるかもしれないし、ものすごくうまくいかなくなったら、相手に損失や責任を押し付けたくなるもの。

少し考えれば想定できそうなものなのに、何も決めごとをせずに契約してしまえば法的に揉めるのは当たり前なんですよね。

どんなM&Aでもそうです。買い手となる企業には「少し考えれば想定できそうなこと」を、法務の観点、営業の観点、財務の観点、人事組織の観点・・・など、さまざまな分野において考える力をつけて、ビジネスデューデリジェンスに生かしてほしいと思います。

ちょっとした発想の違いが、幸せなM&Aを生むかどうかの分かれ道を決めたりするものですから。

過去におきた様々なM&A失敗事例からはありがたく学ばせていただきながら、M&Aに対する見極め力を高めていきたいと思います。