前回記事に続き、建設業許可の継承についてです。今回はそのやり方をざっくりとですが説明します。

■事業譲渡契約書締結がスタート

まず、事業譲渡スキームで売主から買主に建設業の許認可を継承する場合には、双方の事業譲渡契約書の締結が「スタート地点」となります。この契約書をベースに、どの許認可を継承するのか、どの資産を継承するのか等を明らかにした上で、許認可継承の申請手続きを行うからです。

ここで、契約書作成の面で下記の点について留意しました。

①締結日と譲渡日
事前に国交省に確認したところ、この許認可継承のスキームを利用すると「おおよそ4ヶ月かかる」と言われていました。なので、事業譲渡契約書の締結自体は3月末に完了できたのですが、4ヶ月間を見越して8月1日を譲渡日として設定しました。

文言はこんな感じです。(参考までに)
「本件事業の譲渡日は令和4年8月1日とする。但し、売主および買主が前項よりも前に本件事業に係る認可を受けた場合には、その日を譲渡日とし、売主は本件事業を買主に対して譲渡し、買主は本件事業を売主から譲り受ける」

②事業譲渡の対象
今回の新制度を使った許認可の継承は、「建設業の全部」を買主に継承することが必須条件です。つまり、売主に建設業の一部事業やそれに係る資産が売主に残ってはいけないのです。
従って、契約書内の「対象範囲」を「全部」と明記しました。

文言はこんな感じです。(参考までに)
「売主は、買主に対し、次条以下の定めに従い、売主の下記事業を譲り渡し、買主はこれを譲り受ける。」
(1)事業範囲:建設業の全部
(2)事業対象地域:XXX
 
 

■譲渡完了後の「買主の貸借対照表の提出」を要請された

今回の新制度活用にあたり、国交省に事業譲渡完了時点の「買主側の貸借対照表を提出するように」と言われました。
これには、買主が特定建設業の許認可を保有する企業なので、本事業譲渡成立によって特定建設業の財産要件を欠くことにならないかどうかの確認が必要、という大きな理由がありました。

特定建設業の財産要件というのは、下記4点が挙げられます。(下記すべてを満たすことが要件です。)

(1)欠損比率 欠損の額が資本金の額の20%を超えていないこと
(2)流動比率 流動比率が75%以上あること
(3)資本金 資本金が2,000万円以上あること
(4)純資産 純資産の額が4,000万円以上あること

国交省としては、買主に特定建設業の許認可を維持させるためには、事業譲受によって対象となる資産・負債を継承した上でも、上記をすべてクリアしている状態を維持できているという「確実な証拠」が欲しい、ということです。

ここで困ったのは、譲渡直後に正式な財務諸表を決算書の形式で提出するタイミングというは、買手の次の決算月を迎えるタイミングですので、国交省からのリクエストである「譲渡直後の貸借対照表」というのは作成するタイミングがありませんでした。

しかしながら先方はお国の役人。「なんとしてでも証拠が欲しい」という感じで、「M&A直後には財務諸表をつくるのは法律で決まっているはず」くらいの勢いでした(そんな法律は無い)。
それだけ、財産要件が欠けないという証拠が欲しいという感じだったんです。

仕方ないので、代替案として、買手の税理士さんが事業譲渡成立時点(8月1日)の暫定貸借対照表を作成してもらい、税理士さんの手書きで「これは特定建設業の許可要件(財産要件)を満たしています」とコメントを記載した上で、顧問としての押印をして提出してくれました。いわば専門家の観点でも「問題なし」と保証してもらうことで解決した感じです。

仕方なく税理士さんへ頼んだ次第でしたが、柔軟で素早い税理士さんだったので、非常に助けられました…。

そして、書面のやりとりを経て、5月上旬に申請完了したものの承認が下りたのは、7月上旬でした。予想よりは早かったなという印象です。


実際の通知書はこちら。(無断転載・ダウンロード禁止)

■従業員が確実に転籍している証明を出すこと

最後に、この譲渡日をもって従業員が確実に買主へ転籍している証明が必要でした。これは建設業許認可取得という意味では、想像に容易い手続きかと思います。譲渡日付で買主名義での社会保険に加入しているという証憑を提出することで対応しました。

以上がざっくりとした、手続き面のおおまかなトピックスとなります。

やり方の説明はここまでとしまして、今回の新制度活用にあたり苦労したことを振り返りたいと思います。

苦労した点① この手続きをやってくれる行政書士さんが世の中にいない…

当初よりスキームを模索する中で、当社の顧問弁護士さんとも相談の上、建設業法17条改正と踏まえると「建設業の許認可は継承できるはずだ」ということは早期からわかっていました。

ですが、私の人脈のどの行政書士さんに伺っても「そんなことは不可能だ」と言って対応してくれる方がいませんでした。もちろん、実績を持つ方は皆無。

売主側の行政書士さん、買主側の行政書士さん両者とも確認してもらいましたが「そんなことはできません」の回答しか得られませんでした。

そんな中、とあるM&A関連人脈を通じて出会った、建設業に特化した「行政書士だるま綜合事務所」の丹治さんにお会いする機会を得ました。

丹治さんは、今回の新しい制度を活用した手続きに対しても果敢にチャレンジしてくれて、事前リサーチから書面作成、売主・買主双方に必要な対応のフォローなどきめ細やかに対処してくれました。今回の案件は、丹治さん抜きでは絶対に成立しなかったと思います…。本当に感謝しかありません。

もし、同じようなニーズのある案件のある方がいらっしゃれば、是非丹治さんにご相談してみてください。

■行政書士だるま綜合事務所のリンクはこちらから!

苦労した点② マニュアルが確立していない

建設業法の法改正自体については、前回の記事にもリンクを貼った通りにアナウンスされています。
国交省のリンクはこちら。

ただし、見てわかるとおり具体的な手続きのやり方というのは何も記載がありません。

新しい制度であり、活用している事例も少ない(というか見たことも聞いたことも無い)中、手続きのマニュアルがないのはハードルが高かったです。

ここも行政書士の丹治さんに多大なご支援をいただき、各都道府県が公表している建設業許可の申請手続き関連の手引き内容を参照していただき、許認可の継承に関わる部分を探してもらいました。

その中で、最も詳細に手続きについて記載されていたのが、千葉県の手引きでした。さすが、チーバくん。
以下、参照ください。

千葉県の手引きはこちらから。

なので、冒頭の契約書の文言なんかも、こちらの手引き内の契約書文言例なんかを活用して仕上げていきました。もし関心のある方は、上記リンクのPDF手引きを見ていただくと参考になると思います。

苦労した点③ 国交省にも過去実績がほぼ無い

前述の通り、「譲渡完了時点の貸借対照表を提出せよ」という強めのリクエストがあった通り、国交省としても、今回の新制度にともなう手続きは不慣れで、非定型業務は当然ながらスムーズにいかないし、受付側も新制度に関連して粗相なく対応しなければというリスク観点もあったでしょうから慎重にならざるを得ないという感じでした。
事例も少ない今回のような許認可の継承については、丹治さんに何度も何度も電話&メールフォロー、催促などを繰り返していただき、案件内容についても何度も同じ説明を重ねながら、やっと対応を進めてもらったというような感じです。

せっかく法改正を施行したのに、活用する現場レベル(申請側も受付側もですが)の人間が積極的になれないとこういうのはなかなか浸透しないものですよね。なんとももったいない…。しばらくは、忍耐強く粛々と手続き業務と闘うしかないなと思いました。

苦労した点④ 許認可承継が完了するまで引継ぎに本腰が入らない

今回は手続きの面で新制度の活用したから余計にですが、「この許認可継承、本当に実現するのか?」という数%の不安が売主・買主の中では存在していたことは事実だと思います。
もちろん国交省に事前に「継承可能」というのは確認済の上で手続きに着手し始めていたとは言え、「100%大丈夫だ」という気持ちにはなれなかったのではないかと思います。

「譲渡契約の締結は完了しているのにもかかわらず、許認可が得られるのかわからない」という状況はM&A案件的には望ましくなく、売主から買主への顧客の継承、従業員への説明や引継ぎ、仕入れ先の継承などすべての面において気持ちの切り替えができないままに時間が流れていた部分が多少はありました。

ただ、この点については当事者である売主・買主の気持ちの問題が大きいもの。そもそも事業譲渡スキームは株式譲渡よりも余計に諸々の継承にエネルギーが必要ですし、当事者が「やるからには全力で継承!」という姿勢になってくれることが望ましいなと思いました。今回は売主・買主の定期ミーティングを設定し、無理にでも進捗を促す形でなんとか進めていただきましたが。

長くなりましたが、以上がざっくりとした今回の建設業許認可の「継承」スキームを活用した案件の特筆すべきトピックスと苦労した点です。

これからも建設業界は事業承継問題を抱える事業者は増加していくと思うので、この新制度を活用するプレーヤーが世の中に増えてくれると良いなと思っています。

もちろん、事業譲渡スキームを選択しないで済むのであればそれに越したことはありませんが、売主側のメリットを考えるとこの制度を活用したほうが良い事例はおそらく世の中にたくさん埋まっているのではないかなと想像しています。事例をたくさん残していけば、国交省も行政書士業界でも「本新制度を活用すること」が選択肢のひとつになりやすくなっていくと思います。少しずつでもいいから現場レベルで「新しいことにチャレンジする!」というマインドセットも必要ですね。

詳しい手続きの内容は千葉県の手引きにお預けするとしまして、本記事が少しでも多くの建設業事業者・M&A関係者・行政書士の方々に届けば嬉しいです。