今月は建設業許可を持つ企業さんの案件を珍しいスキームで譲渡完了できたのでご紹介したいと思っています。

それは「事業承継」スキーム「建設業許可」を継承するというものです。

今回の売主は、自社保有の不動産が大きく保険資産など対象事業とは関係ない資産の所有者変更に労力と費用がかかることなどから、株式譲渡ではなく事業譲渡が理想でした。
ただ、建設業許可に限らず、許認可は法人格に紐づくものなので、許認可を持つ会社のM&Aというのは「株式譲渡」スキームで進めるというのが王道です。

別案として、子会社をつくって、顧客との取引契約や許認可も継承するスキームもアリです。
ここでは諸々考えたうえでその選択はせず(その辺は割愛)、事業譲渡スキームを選びました。

これまで、建設業許可を別法人へ継承するというのは実質不可能なものでした。

その理由を説明します。
まず建設業許可を得るためには、その事業に従事する従業員の在籍が必須です。
従業員が在籍している証明としては、「社会保険に加入していること」を提示するのが主流なので、名前だけ在籍させて従業員が従事しているように見せかけられるようなレベルではありません。
雇用条件(就業時間や日数が書かれたもの)を記載した書面も提出して、きちんとこの事業において毎日働いてもらっているということを証明しなければなりません。

その証明ができる前提で、建設業許可を得るのには新規で通常4カ月くらいかかります。

そして、従業員の在籍ありきの許認可ですから、この許認可自体を別法人に「継承」しようとなるともっと大変です。
一旦、これまで在籍していた法人(売主)から従業員を退職させて、継承先(買主)に転職させて、そこから許認可を取得しなおす必要があります。

つまり、何が起こるかというと、

①売手企業から従業員を退職させる 
 ⇒この時点で売手企業が建設業許可を失い、受注案件の施工ができなくなる。

②買手企業に従業員を在籍させる
 ⇒在籍開始時点で社会保険加入など在籍証明できる状態にし、そこから許認可取得まで4カ月くらいかかり、それまでは受注案件の施工ができない。

ということになります。

上記手続きを踏むと、売手は早々に許認可を失い、買手が許認可を取得(継承)完了するのに数カ月の待ち時間がかかります。
従って、売手企業も買手企業も顧客からの受注案件の施工が数カ月できない、という空白期間が一定期間生じてしまうことが問題でした。

そこで、昨今の国内の事業承継における課題も鑑み、国土交通省管轄の「建築業法第17条」というのが改正されました。

⇒参考資料はこちら(国土交通省HPより)

説明はリンク先のPDF資料の通りなのですが、簡単にいうと「事前に許認可を継承することを国土交通省に申請していてその内容が許諾されれば、空白期間なく許認可継承させてあげるよ」というものです。

今回はこちらの新制度を利用してうまく許認可を継承することができ、事業譲渡スキームにて建設業許可を継承できました。

‥‥と、書くのは簡単ですが、実際に手続き期間中にどんなことが起きたかなどの苦労した点などは、また改めてブログに綴りたいと思います。

新しい制度というのは、国が改正してくれてリリースするまではいわばトップダウンなので簡単ですが、実際にその話を現場の人間とやりとりしながら通すのは全く別の話。

やったこともない仕事を、お役人に対応していただくのは、そんなに簡単なことではありませんでした(笑)。