最近、M&Aの買手企業に必要な要素についていろいろと思うところがあったので綴ってみたいと思います。
M&Aは手段であって、目的じゃない
まず、M&Aというのは経営戦略のひとつであって、M&A=「企業を買収すること」というのは、目的ではないことを明確に認識しておく必要があると強く思います。
最近、事業承継とかM&Aとか、わりとブームになっているので、「案件紹介してください!」と声掛けいただくことが多いです。
「うちの会社もM&Aやりたいんです!」
「柔軟に検討できますので、業種問わず持ってきてください!」
「今年中に1件はやりたいんです!」
こういった声を経営者から聞くことが多いのですが、いつも私はその先の答えを聞きたくなってしまいます。
「M&Aを実行して、その先に何を目指しているんですか?」と。
ここに答えられない経営者に対しては、まずM&A案件は紹介しません。
以前、「M&Aをやってみたい」という社長に、この問いかけをしたところ、こんな答えが返ってきたことがあります。
「え、そりゃその後のキャッシュアウトを狙うためですよ!」
PEファンドなどの投資会社が、数年の会社保有期間を通じてバリューアップして、投資金額よりも高く売却をすることで収益を得るということなら、プロのビジネスなのでその狙いは理解できます。
ただ「投資もM&Aも初心者」かつ「異業種のM&Aも検討したい」という事業者が、M&Aの目的が「そのうちキャッシュアウトを狙いたいから」だと、あまりにも曖昧で目的達成可能性が全く見えません。
さらに言うならば「キャッシュアウトして、何がしたいの?」と聞きたいところです(聞きませんでしたが)。
そんな買手企業に買われた売却会社が、幸せになるとは思えませんよね。
そこに「必然性」があるのか
M&Aというのは企業の成長戦略のひとつです。
これまで良いM&A案件の成約に至った買手企業にはこんな長期経営戦略がありました。(内容は若干脚色しています)
「10年後に海外でも〇〇億円の売上規模を目指すために、アジア・欧州とのチャネルがある周辺事業者のM&Aを検討したい」
「専門性の高い下請け業者をM&Aすることで、専門技術を社内に取り入れ、グループ全体として品質向上をはかり、コスト戦略も柔軟に展開しやすい企業体を目指したい」
「日本市場での製造拠点がひっ迫しているため、製造技術が高くて海外向け商品の製造にも対応できる生産工場が欲しい」
このような戦略を実行するためであれば、M&Aの必然性があるということが良くわかります。
この「必然性」というのは、めちゃくちゃ大事です。
「うちの会社の将来のためには、どうしてもこのM&Aが必要なんだ!」
こういった意思の強さと覚悟がある会社さんに案件をお持ちしたいと強く思います。
逆に、このくらいの気概がないと、そう簡単にM&Aなんてうまくいきません。
DD(買収監査)でいろんな問題がでてくるかもしれないし、PMI(統合後プロセス)においても、企業カルチャーや歴史が違うわけですから、非常にエネルギーがかかります。
意思の強さと相当の覚悟がないと、すぐにDD中に「やっぱりやーめた!」となってしまったり、PMIでも「譲渡契約を解消したい」という気持ちになってしまいがちです。
売却する側の会社は、30年や40年も手塩にかけた会社を譲るわけですから、「やっぱりやーめた」なんて言われるくらいの軽い覚悟で臨んでほしくないわけです。
逆に言えば、M&Aは「あくまで経営戦略のひとつだ」と、その先にある大きなゴールを描いていれば、DDやPMI中のちょっとしたトラブルなんて「さっさと解決して先に進まなければ!」と毅然とした態度で対処することができます。
買手企業が複数あって、1社に絞る際に、私はこの「必然性があるかどうか」という点をすごく大切にしています。
長くなってきたので、後編に続きます。